「やれ」

 一言男が命じると、傍らに佇んでいた女は音もなく駆け出した。

「第一開放〝限定解除〟、――力を示せ、我が剣」

 女は目にも留まらぬ速さで敵に肉薄し、あまりにも細い腕一つで屈強な男の心臓を一突き。その絶命を確認する間も惜しむように次の敵へと飛び掛る。
 男は当然のように飛び散る鮮血を見つめていた。女は全身が血に濡れることも気にせず、淡々と命じられたまま敵を葬る。
 一人、二人、三人、四人、――大きく広がった血溜りが男の下に届く頃、女は足を止めた。
 だらりと下ろされた両腕から滴る鮮血が静かな血の海に波紋を広げ、次の命令を待たず弾かれたように駆け出す。

「急くな、瑞姫[ズイキ]」

 男は嗤った。
 女は立ち止まる。

「俺の獲物だ」

 瑞姫と呼ばれた女とは別にもう一人、男の目の前には長い銀髪も眩しい妙齢の女が立っていた。

「第二開放〝戦闘妖精〟、――我が剣と成れ、四狂瑞姫」

 男の行動をおかしそうに見ていた女は、光の粒子となって男の下へ戻る瑞姫を見送り、一度大きく後ろへ跳んだ。
 男は身の丈ほどの大剣となった瑞姫を構え、女に攻撃の暇を与えず斬りかかる。
 女は軽い身のこなしで斬撃を避けたが、自慢の銀糸が幾筋か宙を舞った。

「酷いな」
「お前はここで、俺が倒す」
「出来るものか」

 確信の含まれた言葉。男は切っ先を返す。

「やるのさ」

 女はそれまでの薄ら笑いを消し血溜りを蹴った。

「悪い子にはオシオキが必要かな?」

 目前に迫る切っ先を完璧な身のこなしでかわし、男へと伸びる刀身に手を突き長い銀糸を翻す。――刹那、甲高い女の悲鳴が場を揺らした。

「なっ…」
「ほら、御主人様が分からず屋だから痛い目を見た。お前は何も悪くないのに、可愛そうな瑞姫」
「貴様…ッ!」

 男の手から零れた光の粒子は再び人の姿を取り、腹からドクドクと真っ赤な血を流しながら瑞姫は蹲る。押さえて押さえても押さえても、溢れ出す血は止まらなかった。感情なき妖精の叫び声も止まない。まるで体の中で地獄の業火でも暴れまわっているかのように、真っ赤な床でのた打ち回る。

「――お前に私は殺せない」

 男は独り、女は一人だった。





すんません遅くなりました
次は「き」