重ねた手と手。伝わらない温もり。
 貴女を愛していましたと、口に出来たらどんなによかっただろう。

「アヤカ」

 結局その機会は永遠に失われてしまったのだけれど、僕だって、もう以前の僕と同じであるとは、到底言いがたいのだけれど、

「姉さん」

 貴女への想いは本当でした。今はもう色褪せてしまっているけれど、貴女と過ごした日々を思い出すだけで、胸の奥がじわりと温かくなる。
 愛していました。たとえ貴女の愛が僕一人に向けられることのないものであったとしても、貴女だけを、僕はただひたすらに愛し欲していました。
 苦しかったのです。だから変革を望んだ。

『生きて』

 貴女の最期の言葉が耳について離れない。残酷な人。僕は貴女さえいればそれでよかったのに、貴女は僕だけではなく、僕と、僕以外の多くの命を望んだ。我侭ですよ、貴女は。僕と貴女のように、貴女とあの人だって、決して結ばれることはないのに。





「行きますよ、夜空」

 頭上には鋭利な月が浮かんでいた。あの日と同じ、触れれば切れてしまうのではないかと思えるような三日月。

「本当にやるのか」
「なんのために暁羽に頭をさげたと思ってるんです。今更やめられませんよ」
「…頭はさげなかっただろう」
「即答でしたからね」

 月光に翳した手の平から溢れ出す燐光は、あたかも祝福のように降り注ぐ。ぴったりと寄り添ってきた夜空の背に手を置いて、力の流れを掌握した。周囲に青白い光が満ちて――さぁ、始めましょう――道が、繋がる。

「なんだかんだいって、僕も愛していたんですかねぇ」
「なんだかんだいって、愛されていたからな」
「気持ち悪いことを言わないでください」
「……」

 遥かなる彼の地へ。


「僕は生まれてこの方、父親って存在が大嫌いなんですよ」


「…そうか」

 この体に流れる血の一片が、繋げた。




次は「に」
すんませんだいぶ遅くなりました