ある春先の曇天。




 時節に合った強い風が、そこに立つ幾人かを吹き曝しにしていた。

 長い黒髪を押さえる者あり、髪を束ね入れた帽子を押さえる者あり、煙草の紫煙を風に乗せる者あり、ただ遠くに見える母校を見つめる者あり、更に来るべきあと一人を待ち望み来た道を振り返り見る者あり。


 各々が自由にその時を過ごしつつ、共に過ごした日々を思い返していた。



 誰も何も言わないのに、その誰もが口元には静かにひっそりと懐かしく良かった日々を思う笑みが浮かんでいる。





 語る事は何も無いのだ。












 本来ならこの場所には旧知の六人が集まる筈であった。

 だがしかし待ち合わせの時間には五つの影しかこの場所に辿り着けなかった。





「逝去したのか―――…」


 誰かが腕時計を見ながらぽつり、そう口にした。


 事実を知っていた者、考えが至っている者は静かに頷き、他は予想していなかったのだろう、少なからず目を開き唇を微かに乾かせて驚いている。







 来なかった影は過去に確かに記していた。

『儂は早死にだ』と。





 雨の匂いが風に雑ざり辺りを包み込む。
 夜にもなれば雨が黒い空から降るのだろう…。



次は「ず」