肉体的には相当な苦痛。一人分の身体に背負うには重た過ぎたものが、三つもあったのだから。
 それも今日で終わる。
 全ての苦痛から本当の身体の持主を解放し、自由にしてやる。本人が望まなかった身体には、契約したモノが残る。二人の中和を望んで二人が造り出したモノには、新たな身体を与える。
 その準備がすべて整った。

「全部のコードを一回引っ張ってみてください」
「思いっきりやっていいの?」
「はい。ちゃんと入ってれば抜けませんから」

 羊水の中に浮かぶ女と通信機器を介して言葉を交わした。白衣に身を包んだ少女が卓上の端末を操りながら幾つかの指示を送る。女はそれに素直に従い、コードが抜けないことを確かめてゆっくりと目を閉じた。

「何度か小さい電流を流していきながら段々大きくしていきます。どこかで異変が出れば止めますが、出ない場合は最大値、その身体が破壊されると予想される値を一度出して実験を中止します」
「説明はいいのよ、その辺は全てあなたに任せてあるから」
「…失敗を恐れないんですか?」

 自分がまるで被実験体だと気づいていないような口調に少女は眉根を寄せた。その声も聞こえている筈なのに、女の口元には先ほどまでと何ら変わりない微笑が浮かべられている。
 小さく溜め息を吐き、視線を女に移した。

「今から、もう一つの器を中に入れます。貴女とは別の反応が起きますから、出来たら見ないであげて下さい」
「私は分離が完全になされるまでは目を瞑っている約束なの。それ以降は見てしまうかもしれないわ」
「…まあいいですよ。あまり見て気が良いものではありませんけどね」
「でしょうね」

 少女は自分の影を見つめ、その名を呼んだ。音も無くその影から黒い姿が浮き上がってくる。それは十歳ほどの少年の背格好をしていた。顔や手などの身体の一部分と特定できる事はできるが、すべてが黒一色で、その表情は窺い知れない。ただ、少女には分かっているようだった。

「少しの間だけ、我慢してください」
「ぼくは役に立てるだけでうれしいんだよ」

 その少年の頭を一度撫で、少女は少年に指示を出した。研究室の明かりを落とし、彼が歩いて行ける道をゆっくりと羊水の入った透明な円柱型の水槽にゆっくりと近づき、そのガラスを通り抜けて中に入った。羊水の中に浮き、ほぼ中央に位置すると少女を振り返る。真黒な身体がまるで羊水に溶けだしているかのように、その身体は少しずつ端の方から消えていった。
 それを見終えて少女はボタンに指を置いた。頬を伝って落ちるものに気づかないふりをして、通信機器に言葉を吐きかけた。

「実験を、開始します」


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